量子力学@高知工科大学 第5ー8回

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第五回
「量子的調和振動子、演算子の魔術、そして超対称性」

調和振動子問題の解

ポテンシャル V が
V(x) = k/2 x^2
で与えられる時の、質量 m の量子的粒子の運動を考える。すなわち
h^2/(2m) dx^2\d^2 ψ + k/2 x^2 ψ = E ψ
x→∞、x→-∞両方でポテンシャルが正に発散するので、粒子はいつも有限の領域に閉じ込められ、離散的な固有値スペクトルのみが現れる。どうやって解いたかはこれから説明するとして、この問題の解は、量子数 n = 0, 1, 2, 3, … で指定されるスペクトル
E_n = h ω ( n + 1/2 )
とそれを与える状態
ψ_n(x) = N H_n( √γ x ) e^( –γ/2 x^2 )
で与えられる。(この場合寒冷にしたがって、基底状態をn=0にする量子数の決め方をした)ここで ω = √(k/m) 、γ=√(mk)/hであり、H_n(x) はエルミート関数である。これは
H_0(z) = 1
H_1(z) = 2z
H_2(z) = 4z^2-2
H_3(z) = 8z^3-12z
H_4(z) = 16z^4-48z^2+12

と与えられ、高いnのH_nはより低いnたちのから
H_{n+1}(z) = 2z H_n(z) – 2n H_{n-1}(z)
として得られる。 Nは任意の定数で良いのだが、<ψ_n |ψ_n > = ∫dx ψ*_n(x) ψ_n(x) = 1 に選ぶと都合がいいので、そのために
N = (γ/π)^(1/4) 1/√(2^n n!)
として置くのが便利である

宿題5−1:上記 ψ_n(x) が、シュレディンガー方程式 -h^2/(2m) dx^2\d^2 ψ + k/2 x^2 ψ = E ψ のエネウギー E_n = h ω ( n + 1/2 ) の解であることを、n=0、1、2、3について直接計算によって証明せよ。

基底状態からいくつかの波動関数を図示するとこんな様子である。ポテンシャルV(x)と固有エネルギーも判るように描いてある。(グリフィス先生の本から取って来たので違法状態。誰か差し替え用のを作ってくれたらポイントあげます)

基底状態の波動関数ψ_0はひとこぶで、ψ=0となる点(ノードと呼ぶ)が無い、第一励起状態ψ_1はノードが1つで一山一谷、第二励起状態ψ_2はノードが2つで二山一谷、…という一般的な性質は、前の箱形のポテンシャルと同様である。古典的に禁止された E – V(x) < 0 の領域への波動関数の浸透も同様である。エネルギー固有値が等間隔で現れているのが、調和振動子系の特別な性質である。

演算子の魔術

こんな演算子の組
A = h/√(2m) dx\d + √(k/2) x
A† = – h/√(2m) dx\d + √(k/2) x
を考える。積の微分 dx\d x ψ = x dx\dψ + ψ から導かれる演算子の関係
dx\d x = x dx\d + 1
(つまり任意の関数に作用させたとき、左の演算子と右の演算子が同様の効果を生ずる)に注意すると
A† A = – h^2/(2m) dx^2\d^2  + k/2 x^2 – 1/2 h ω
が得られる。ついでに逆順の演算子積も計算しておくと
A A†  = – h^2/(2m) dx^2\d^2  + k/2 x^2 + 1/2 h ω

宿題:上の二つの関係を導け
ヒント:任意の関数を例えばφ(x) と書いて、A† A φ、A A† φ を計算してみよ。このとき演算子は右に来る全体の関数に作用すると理解すべき事に注意せよ。

調和振動子のハミルトニアン
H = – h^2/(2m) dx^2\d^2  + k/2 x^2
を使ってこれを書き直すと、なにか奇麗に見える式
A† A = H – 1/2 h ω
A A† = H +1/2 h ω
を得る。いま仮にある関数 ψ_1(x) があって、それが
A ψ_1 = 0
を満たすとすれば、当然 A† A ψ_1 = 0 である。これは
H ψ = 1/2 h ω ψ
を意味していて、つまり ψ_1(x) が調和振動子問題の解の一つ、固有値 E = 1/2 h ωをもつ固有関数であることを示している。いまの条件 A ψ_1 = 0 をちゃんと書くと
dx\dψ_1 + γx ψ_1 = 0
ただし γ = √(mk)/h)となって、この微分方程式の解は容易に
ψ_1(x) = e^( -γ/2 x^2 )
と見つかる。

いま ψ_1 の満たすシュレディンガー方程式 H ψ_1 = 1/2 hω ψ_1 の両辺に A† を作用させた式
A† H ψ_1 = 1/2 hω  A† ψ_1
を考えてみる。左辺を適宜書き換えると ( H –  hω ) A† ψ_1 となるので、
H A† ψ_1 = = 3/2 hω A† ψ_1
を得る。

宿題:上の式を証明せよ。

つまり
ψ_2= A† ψ_1
を定義すれば、これが
H ψ_2 = 3/2 hω ψ_2
をみたす。なので ψ_2(x) は固有値 E = 3/2 h ωをもつ H の固有関数なのである。

この操作を繰り返すと、固有値 E = 5/2 h ω をもつ
ψ_3= A† ψ_2 = A† A† ψ_1
固有値 E = 7/2 h ω をもつ
ψ_4= A† ψ_3 = A† A† A† ψ_1
という具合に、Hの固有関数を芋蔓式に見つける事が出来る。

以上を要するに、二階の微分小夜嘘のある固有値問題が、一階の微分方程式の問題、そして微分演算子を作用させる問題に置き換えられて解けた訳である。

超対称性

調和振動子はエネルギー固有値が 1/2 hω、3/2 hω、5/2 hω、7/2 hω、とエネルギー差 hωで等間隔に並んでいると言う特別な性質がある。このような特別な性質の裏には、通常なにか仕掛けが潜んでいる。そのからくりは、実は上の導出法を良く考えると、もう明かされている。

いま二つのハミルトニアン
H_F = A† A
H_B = A A†
で与えられる系「F」、と系「B」があるとする。仮に H_B に固有値 E の固有状態 ψ_B が見つかったとする。
H_B ψ_B= E ψ_B
もし
ψ_F = A† ψ_B
なるものを定義すれば
H_F ψ_F = A† A A† ψ_B = E A† ψ_B
すなわち
H_F ψ_F = E ψ_F
なので、つまりはH_Fにも同じ値の固有値 E の固有状態 ψ_F がある事を示している。これは逆にも言えて、もしH_Fに固有状態が
H_F ψ_F = E ψ_F
と見つかれば、 H_Bにも同じ値の固有値 E の固有状態 ψ_B= A ψ_Fがみつかる
H_B ψ_B= E ψ_B
つまり H_F と H_B は全く同じ固有値たちを持ち、対応する固有状態どうしは演算子ひとつで変換できる、いわば双子の系なのである。このような関係の事を「超対称性」と呼び、超対称の関係にある二つの系FとBを「超対称パートナー」と呼ぶ。

ただし超対称パートナーの固有値が、いつも全て同じ、と言う訳ではない。もし仮にある特別な関数ψ0があって、それが
A ψ0 = 0
という方程式を満たすとしてみる。
H_F ψ0 = 0  ψ0
とかけるので、ψ0 は系Fのハミルトニアン H_F の固有値0をもつ固有状態である。ところが系B側でこれに対応する筈の状態 A ψ0 は、ψ0の構成法自体からして0となって存在しない。つまり系Bと系Fは完全な双子ではなく、系Fの側が固有値を一つだけ多く持っている、と言う事になる。

超対称なパートナーは、このような「そっくりなんだけど一つだけ余計な状態を一方が持つ」という性質を持っている。

この程度の対称性に、なぜ「超対称性」などという大層な名前がついているのか、訝しく思う人もいるだろう。それを納得するのは場の理論に現れる超対称性を見る必要があるが、ここで解説するのは難解すぎて不可能である。

↑って書いたら、KEKの筒井泉先生に見とがめられて、次のようなお言葉を頂いた(一部編集):

「超對稱性は素粒子論のモデルとして從前から有力視されてゐるもので、時空と粒子の統計性を融合した對稱性です。何か氣の利いた繪でも入れて話せば良いかも知れません。序でにフェルミ粒子の不思議さの話をすると、興味を牽くやうにも思ひます」

超対称パートナーである二つの系が(一つを除いて)全く同じスペクトルを持っている、というのは実は少し言い過ぎである。たとえば両方の系でエネルギーの起点をαだけずらした

H_F = A† A + α
H_B = A A†
というのを考えるとよい。全てのスペクトルは双方で定数だけずれているが、これでも本質的にはH_F と H_B は超対称パートナーである、というのは納得できるだろう。

これで調和振動子が解けたからくりの説明が出来る段階に達した。調和振動子ハミルトニアンは
H = A† A + 1/2 hω =  = A A† – 1/2 hω
と書けて、いわばそれ自身が自分の超対称パートナーであって、ただし一方と看做す時と他方と看做す時で、エネルギーが hω だけずれている。この非常に特殊な性質を持った調和振動子では、次のような面白いことが起こっている。

まず基底状態 ψ0 が A ψ0 = 0 を満たしている。その一つ上の、エネルギーが hω だけ高い状態 ψ1 が、基底状態 ψ0 の超対称パートナー ψ1 = A† ψ0 となっている。そして同様に、ψ1 のまた一つ上の、エネルギーがhωだけ高い状態 ψ2 が、基底状態 ψ1 の超対称パートナー ψ2 = A† ψ1 となっている。これがどこまでも続いているのである。基底状態自身はψ0 = A† ψ00 となるべき「逆方向の超対称パートナー」ψ00を持っていない。それ故 ψ0 より低いエネルギーの状態が無いのである

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第六回
「ディラックのデルタ関数と波動関数の不連続性」

ディラックのデルタ関数、ヘヴィサイドのテータ関数

長さ L を小さい数として、箱形の関数
D(x) = 1/L       ( -L/2 < x < L/2 )
= 0         ( それ以外 )
を考えてみる。積分範囲 {-∞,  ∞} であきらかに
-∞dx D(x) = 1
である。

これの非常に鋭い極限 L → 0 を考えても、上の関係は不変であるが、この極限ではそれに加えて
-∞dx D(x) f(x) ≈ f(0) ∫dx D(x) = f(0)
の関係が成り立つであろう。

また V(x) の不定積分 ∫-∞x dx D(x) を考えると、積分の上限xが -L/2 以下では積分は0、積分上限 x が L/2 以上なら積分は1となるから、 L → 0 の極限では
-∞x dx D(x) = 1   ( x < 0 )
=  0   ( 0 < x )
となるであろう。この極限で D(x) は、 x = 0 近傍以外ではその値は 0 で、x = 0 近傍でのみ非常に大きな値をとる、きわめて特異なものとなる。

このような特異な極限をあらわすものとして、ディラックは「デルタ関数」と称するものを定義した。それは通常 δ(x) と書かれ、次のような性質を持つとされる
δ(x) = 0  ( x ≠ 0 )
-∞∞ dx δ(x) = 1
-∞∞ dx δ(x) f(x)  = f(x)
さらに
-∞dx δ(x) = Θ(x)
だだし右辺 Θ(x) は「ヘヴィサイドのテータ関数」とよばれる次のような不連続な関数
Θ(X) = 1      ( 0 < x )
= 0      ( x < 0 )
である。これを逆に考えると
dx\d Θ(X) = δ(x)
となる。さらにはデルタ関数の微分 δ'(x) = dx\d δ(x) も考えることができ、それは
-∞∞ dx δ'(x) f(x)  = – dx\d f(x)
-∞dx δ'(x) = δ(x)
という性質を持つとするのである。

普通に数学的に考えると、上に書いたような諸性質をもつ「関数」などというのは、全くのナンセンスである。だいたい連続でも微分可能でもないヘヴィサイドのテータ関数について「微分」を考えるとは!しかし物理的にいえば、鋭い箱形関数 D(x) の L が0の極限というのは、非常に便利で、その極限を表す一種の省略記号として、ディラックがデルタ関数を考えたのはきわめて理にかなっている、とも言える。実際量子力学では、この δ(x) というものが様々な場面に頻出する。

「ディラックのデルタ関数」は登場からだいぶ時を経て、ローラン・シュワルツの超関数distributionの概念、そして佐藤幹夫の超関数hyper functionの概念の登場によって、数学的正当化を得ることとなった。

デルタ関数ポテンシャルのあるシュレディンガー方程式

ポテンシャルがV(x) =  v δ(x) で与えられるシュレディンガー方程式を考えてみる。ここでは v は実の定数とする
– h^2/(2m) dx^2\d^2 ψ(x) + v δ(x) ψ(x) = E ψ(x)
ゼロを含む微小区間 [-ε, ε] でこれを積分してみる
– h^2/(2m) ∫ε dx dx^2\d^2 ψ(x) + v ∫ε dx δ(x) ψ(x)= E ∫ε dx ψ(x)
右辺は ≈ E 2ε ψ(0) なので ε → 0 で 0 となるので
– h^2/(2m) ( ψ'(ε) – ψ'(-ε)  ) + v ψ(0)= 0
を得る(ここで ψ'(x) は ψ(x) の微分ψ'(x) = dx\d ψ(x) の略記である)これは波動関数の微分が、x = 0 の左右で異なり、その微分の不連続性が
ψ'(0+) – ψ'(0-) = v 2m/h^2 ψ(0)
で与えられるのだとすれば辻褄が合う。この場合波動関数ψ(x)自体は、 x=0 でも連続のまま、すなわち
ψ(0+) – ψ(0-) = 0
だと考えているのである。

ではこの系の解を探そう。x=0 以外ではポテンシャルは0なので、E > 0 ではスペクトルは連続である。離散スペクトルは(もしあるとすれば)E < 0 でのみ見つかる。

* 離散スペクトル: E < 0
この場合の x = 0 以外のあらゆる x でのシュレディンガー方程式は
dx^2\d^2 ψ(x) – κ^2 ψ(x) = 0
ただし
κ = √(-2mE) / h
となって、この一般解はψ(x) = A e^(κx) + B e^(-κx) である。そのうちで物理的に意味があるのは、特異点の左側の領域で B = 0 のもの、すなわち
ψ(x) = A e^(κx)   (x < 0)
そして特異点の右側の領域で A = 0 のもの、すなわち
ψ(x) = B e^(-κx)  (0 < x)
となるものである。特異点 x = 0 における、ψ(x)の連続性とψ'(x)の不連続性の条件を、これら二つの領域の解に科すと – 2κ = 2mv / h^2、すなわち
√(-2mE)  =  – v m/h
を得る。この式が意味を持つのは v が負の場合に限る。ゆえに、離散スペクトルは v < 0 のみで存在し、その固有エネルギーは
E = – 1/(2m)  (v m/h)^2    ( v < 0 の場合のみ)
で与えられる。

* 連続スペクトル: E > 0
この場合、 x = 0 以外のあらゆる x でのシュレディンガー方程式は
dx^2\d^2 ψ(x) + k^2 ψ(x) = 0
ただし
k = √(2mE) / h
となって、この一般解はψ(x) = A e^(ikx) + B e^(-ikx) である。E > 0 のあらゆる値でこの解は意味を持つ。いまそのうちでもし、x = 0 の左側から入射する波を考えると、その一部が反射、一部が透過してx > 0 の領域を進行するだろう。すなわち
ψ(x) = e^(ikx) + R e^(-ikx)  (x < 0)
そして
ψ(x) = T e^(ikx)                    (x < 0)
特異点 x = 0での接続条件を課すと
T =   ikh / ( ikh – vm/h ) ,   R =  vm/h  / ( ikh – mv/h )
が得られる。これから透過率と反射率は
|T|^2 =  E / ( E + 1/(2m) (v m/h)^2 ) ,    |R|^2 =   1/(2m) (v m/h)^2 / ( E + 1/(2m) (mv/h)^2 )
と求まる。ただしここでは、透過率と反射率を、波数 k の代わりに、エネルギー E = (kh)^2/(2m) の関数として表記した。
  

宿題6−1: x = 0での接続条件を書いて、それから上の4つの式を導け

これで見てわかるように、ディラックのデルタ関数をポテンシャルは、低エネルギーの粒子に対して反壁となり、高エネルギーの粒子は透過させるという、「ハイパスフィルター」の性質を持っている。

シェバのデルタプライム・ポテンシャル

一点で特異的な振る舞いをする「関数」をポテンシャルに持つ系では、波動関数とその導関数に非連続性が生じうる。ディラックのデルタ関数は、導関数にのみ飛びを生む特殊例であり、その後シェバによって、導関数は連続に保ったまま波動関数自体に飛びを生ずるような「デルタプライム」関数のポテンシャルが発見されている。シェバのデルタプライムが、位置 x=0 に強さ u でポテンシャルとして存在すると、そこで
ψ'(0+) – ψ'(0-) = 0
ψ(0+) – ψ(0-) = u h^2 /(2m) ψ'(0+)
という不思議な接続条件が実現されるのである。興味深いことにこのデルタプライムは、入射する粒子に対してデルタとは反対の「ロウパスフィルタ」として振る舞うことが知られている。すなわち「デルタプライムの壁」は、低エネルギーの粒子を透過させ高エネルギーの粒子を反射させる奇妙な性質を持っているのである。

ヂラックのデルタや、シェバのデルタプライムのような「特異なポテンシャル」が存在すると、波動関数かその導関数の一方に飛びが生じるとすれば、波動関すにも波動関数の導関数にも飛びのあるような特異なポテンシャルはないのかという、当然の疑問が生ずる。そしてその答えは「はい」である。その代表が「フロップ=筒井の特異ポテンシャル」が与える接続条件
ψ'(0+) – (1/t) ψ'(0-) = 0
ψ(0+) – t ψ(0-) = 0
である。「スケール不変型の特異相互作用」ともよばれるこのポテンシャルがある系には、束縛状態は存在しない。そしてその散乱問題を解くと、反射率、透過率がともにエネルギーに依らない一定の数になっている。

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第七回
「変分法、摂動法」

完全系

いまハミルトニアン H の固有値問題が解けて、固有値の組 {E_n} と固有関数の組 {ψ_n} が n = 0, 1, 2, … と全部求まったとしてみる。エルミートな演算子 H の固有関数の組は、全体で「完全系」をなしている。(この一般的な証明は困難が伴うが、通常でてくる H ではいつもにそうなっている)その意味は、任意の波動関数 Φ が、常に
Φ(x) = Σ_n c_n ψ_n
の形にかける、ということである。どうやって実際にc_nを求めるのか、を考えると、{ψ_n}の直交性という性質が便利になってくる。それは、違った数nとmに対しては
∫dx ψ*_n(x) ψ_m(x) = 0
が成り立つというもので、これも固有関数の大事な性質である。これに加えて固有関数の規格因子を ∫dx ψ*_n(x) ψ_n(x) = 1 になるように選んでおけば、全てのn,mについて
∫dx ψ*_n(x) ψ_m(x) = δ_{n,m}
となる「正規直交系」ができて、c_nは
c_n = ∫dx ψ*_n(x) Φ(x)
と求まる。ただしここで δ_{n,m} は「クロネッカーのデルタ」
δ_{n,m} = 1  (n = m)
= 0  (n <> m)
である

宿題:エルミート系のエネルギー固有値のの異なる二つの固有関数について、直交性を証明せよ

例1
区間 0 < x < L でフーリエ展開
ψ_n(x) =  √(2/L) sin( π/L n x)   (n=1, 2, …)
は正規直交系
∫dx ψ*_n(x) ψ_m(x) = δ_{n,m}
であり、この区間で定義されたΨ(0)=Ψ(L)=0となる全ての関数Ψ(x)を、一意的に展開できる

例2
エルミート関数
x直線上で、エルミート関数にガウス型の重みをかけた関数
ψ_n(x)  = (γ/π)^(1/4) 1/√(2^n n!)  H_n( √γ x ) e^( –γ/2 x^2 )
は正規直交系
∫dx ψ*_n(x) ψ_m(x) = δ_{n,m}
であり、この区間で定義された e^( –γ/2 x^2 )で減衰する全ての関数Ψ(x)を、一意的に展開できる

変分原理

ハミルトニアン H の基底状態 ψ_0 と基底エネルギー E_0 を近似的に求めるのに、簡単で強力な方法がある。それは次の単純な事実を利用するのである。勝手な波動関数 ψ を持ってきてハミルトニアンの期待値をとると、それは常に E_0 より大きくなる
E_0 <=  ∫dx ψ*(x) H ψ(x) / ∫dx ψ*(x) ψ(x)
なぜなら勝手な波動関数 ψ は常にハミルトニアン H の固有関数の作る完全系 {ψ_n}で展開でき、展開係数を c_n と書けば、上の右辺の量は
Σ_n |c_n|^2 E_n
とかけて、これは E_n の定義により、基底エネルギー E_0 より常に大きくなるから。

つまり
E =  ∫dx ψ*(x) H ψ(x) / ∫dx ψ*(x) ψ(x)
は関数を適当に選べば、E_0に上から近づく。

宿題:証明せよ。


無限壁ポテンシャル
V(x) = 0           (0 < x < L)
= ∞          (x<0, L<x)
の基底状態のエネルギーを「三角な波動関数」
ψ(x) =  Ax           (0<x<L/2)
=  A(L-x)     (L/2<x<L)
= 0               (otherwise)
を使って評価してみる

積分
∫dx ψ*(x) ψ(x) = |A|^2 L^3/12
そして H = –h^2/(2m) dx^2\d^2 を用いて
∫dx ψ*(x) H ψ(x) =  –h^2/(2m)  ∫dx ψ*(x) dx^2\d^2 ψ(x) = h^2 |A|^2 L/(2m)
ここで

結局
E = ∫dx ψ*(x) H ψ(x) / ∫dx ψ*(x) ψ(x) = 12 h^2 /(2mL^2)
これは基底エネルギー
E_0 = π^2 h^2 /(2mL^2)
よりもちろん大きいが、割と近いいい近似になっているともいえる。

宿題:上の式を証明せよ。ここで dx\d ψ(x) = 2A ( Θ(x) – 1/2 ) に注意せよ。するとその微分 dx^2\d^2 ψ(x) は…、そしてそれにψ*(x)を掛けて積分したら…

宿題:同じ問題
V(x) = 0           (0 < x < L)
= ∞          (x<0, L<x)
の基底状態のエネルギーの近似値をを「放物波動関数」
ψ(x) =  -A x (x-L)           (0<x<L)
=   0                       (otherwise)
を用いて求めてみよ

摂動法

ハミルトニアンの解を求めるのが難しいが(たいていの問題では難しい)、そのハミルトニアンに近い別の問題の解が求まっている、という場合を考えてみよう。本当のハミルトニアンを H 、それに近いハミルトニアンで固有関数系が見つかっているのを H_0 としてみる。そして
H = H_0 + λ H_1
とかいて、λ が小さいと考えるのである。解けてる方の H_0 の固有値の一つを e 、それに対応する固有状態を φ とかく。
H_0 φ = e φ
この状態に近い、本当の H の固有状態を探すことを考えてみよう。その固有値を E、固有状態を ψ とすると、それは λ = 0 で e、φ に一致するから
E =  e + λ e^(1) + λ^2 e^(2)+ λ^3 e^(3) + …
ψ =  φ + λ φ^(1) + λ^2 φ^(2) + λ^3 φ^(3) + …
という風に λ の冪で展開できるだろう。本来の H についての固有方程式
H ψ = E ψ
にこれを代入すると
H_0 φ + λ { H_0 φ^(1) + H_1 φ } +  λ^2 { H_0 φ^(2) + H_1 φ^(1) } + …
=  e φ + λ { e φ^(1) + e^(1) φ } +  λ^2 { e φ^(2) + e^(1) φ^(1) + e^(2) φ } + …
この等式が λ の(小さいという範囲内で)あらゆる値で成り立つには、あらゆるn について λ^n の係数が等しくなければならない。λ^0、λ^1、λ^2 についてこれを書き出すと
H_0 φ = e φ
H_0 φ^(1) + H_1 φ = e φ^(1) + e^(1) φ
となっている。最初のは e と φ の定義にすぎない。二番目の式に φ*  を掛けて積分すると
∫dx φ* H_0 φ^(1) + ∫dx φ* H_1 φ = e ∫dx φ* φ^(1) + e^(1) ∫dx φ* φ
これから容易に次の式を得る
e^(1) =  ∫dx φ* H_1 φ / ∫dx φ* φ

宿題:上の式を証明せよ

つまり
E ≈ e +   ∫dx φ* H_1 φ / ∫dx φ* φ
という近似式を得る。


調和振動子ポテンシャル V(x) = k/2 x^2 の基底状態を、無限壁ポテンシャルの基底状態から近似で求めてみる

V(x) の基底状態を染み出しまで含めて「充分覆い尽くす」近似的波動関数
φ(x) = √(2/L) cos(π/L x)
を考える。これをエネルギー
e = (hπ/L)^2 / (2m)
をもった基底状態とする、 x=-L/2, L/2 に立つ無限壁を持つ系を、摂動の出発点と考えるのである。このエネルギーの状態の、V(x) に関する古典的転回点 x_0 は
e = k/2 (x_0)^2
で与えられるが、波動関数はこのx_0の数倍程度まで滲み出していると考え、それを壁までの距離と同一視する。すなわち a を2程度の値として
L / 2 = a  x_0
これから、第零近似の固有値と固有関数を定める L が
L^4 = 1/k (2aπh)^2/m
となるが、これは
L^4 = (2aπ/γ)^2
とかきなおせる。ただし γ = √(mk) / h 。すると第零近似のエネルギーは
e = π/(4a) hhγ/m = π/(4a) hω
とかける。
つぎに摂動エネルギー e^(1) は、積分区間を-L/2 < x < L/2 ととって
e^(1) =  ∫dx φ* k/2 x^2 φ = k/2 2aπ/γ (π^2-6)/(12π^2)
= a (π^2-6)/(12π) hω
と求まる。

宿題
これを証明せよ。(積分区間-π/2~ π/2での関係 ∫dt t^2  cos^2 t = π(π^2-6)/24 を用いよ)

で結局、摂動法で無限壁の基底状態から求めた調和振動子の基底状態の固有値は
E ≈ ( π/(4a) + (π^2-6)/(12π) a ) hω
と求まる。a = 2  でこれは 0.597 hω をあたえる


摂動で評価したEを、aを変えて図示してみた。真の値 1/2 hω と比べて、まずまず良い評価といえよう

宿題:4次ポテンシャル
V(x) = k/2 x^2 + β x^4
のシュレディンガー方程式の基底エネルギーを、βが充分小さいと仮定して、β=0の調和振動子の基底状態から摂動計算で評価せよ。

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第八回
「周期的ポテンシャルと固有エネルギーのバンド構造」

ブロッホの定理と擬波数

これまで見てきたように、空間のある限定された領域にのみポテンシャルの凹みがあると、その領域に局在する固有状態に対応して、エネルギーの低い領域で固有値の離散スペクトルが見られる一方、空間全体に広がった固有状態にに対応して、エネルギーの高い領域には連続スペクトルが見られる。

ポテンシャルの凹み(ないしは凸り)が空間全体に繰り返し規則的に現れるとき、これとは異なった「スペクトルのバンド構造」が見いだされる。連続スペクトルが幾つもの空白領域「バンドギャップ」で断続的に区切られて、帯状に現れる。そしてこの帯状スペクトルこそが、金属や半導体の電気伝導の性質を決める基本的な役割を果たすのである。

固体の電子伝導については、今後の「物性物理学」「半導体物理学」「材料工学」といった授業で詳しく学んでもらうとして、ここでは「周期的ポテンシャルからどのようにして帯状のスペクトルが出るか」という問題のシナリオを、比較的簡単に解の求まる模型を例にとって解説する事にする。

空間的な周期性のある量子系で基本となるのが「ブロッホの定理」とよばれる次の事実である。ポテンシャルが周期 L で空間的な繰り返し構造を持っているとする
V(x+L) = V(x)
シュレディンガー方程式 H ψ(x) = E ψ(x) の解 ψ(x) は、その絶対値の二乗が、周期 L の周期性
| ψ(x+L) |^2 = | ψ(x) |^2
をもつ。これはψ(x+L)がψ(x)の絶対値1の複素数倍である、と言い換える事もできる。いまそれを
ψ(x+L) = e^(i q L) ψ(x)
と表現して q を「ブロッホ波数」または「擬波数」と呼ぶ事にする。

ブロッホの定理を証明するにはポテンシャルの x 依存性からくる H の x 依存性を陽に書いた
H(x) ψ(x) = E ψ(x)
と、ここで x を x+L で置き換えた
H(x+L) ψ(x+L) = E ψ(x+L)
の二つを考える。ポテンシャルの周期性から、ハミルトニアンの周期性 H(x+L) = H(x) も得られるので、この2つ目の式は
H(x) ψ(x+L) = E ψ(x+L)
と書き換えても良い事になる。つまり ψ(x) と ψ(x+L) とは、同じシュレディンガー方程式の同じエネルギーの解であり、つまりは定数倍の因子だけを別として等しい、ψ(x+L) =  A ψ(x) と結論せざるを得ない。さらにこれをn回繰返ししたψ(x+nL) =  A^n ψ(x) の n の大きい極限を考えれば、|A| =1 である場合をのぞいて物理的な解とは認められない。なぜならこの条件が成り立たないと、x → ∞ もしくはx → –∞ で波動関数が無限の大きさになってしまうからである。結局距離Lだけ進んだ地点での波動関数 ψ(x+L) は ψ(x) に絶対値1の複素数を掛けたものでなければならない。

ブロッホの定理のまた別な表現として、周期的ポテンシャル系の波動関数を
ψ(x) = e^( i q x ) φ(x)
ただしφは周期関数
φ(x+L) = φ(x)
と書く事もできる。こうして見ると周期系の波動関数は、何かの周期的関数でモデュレイトされた自由波として理解できる。このような波動関数をブロッホ波動関数(または単にブロッホ波)と呼ぶ。

V(x) = 0 の本当の自由波だと、波数 q はq = k = √(2m E) で与えられ、それ故全ての正のエネルギーE で存在する。これが自由波の連続スペクトルであった。ゼロでないが周期的 V(x) があるとき、q = q(E) がエネルギー E のどんな関数で与えられるかが解れば、周期的ポテンシャル系のスペクトルが決まる訳である。

クローニヒ=ペニー模型とバンド・スペクトル

ポテンシャル V(x) が周期的だという性質と、それから導かれるブロッホ波動関数の形だけから、系のスペクトルの一般的な性質を論じるのは難しい。ここではそれに変えて、一つの具体的な解ける系について詳細に調べる事にする。ポテンシャルを次のように取る。
V(x) = v Σ_n δ(x – n L)
つまり距離 L ごとに強度 v のデルタ関数が置かれている系を考える。

ブロッホ定理があるので、距離Lの一つの区間、たとえば x = [0, L) の範囲での波動関数を定めれば問題は解ける。区間 x = [0, L) でのシュレディンガー方程式の解を
ψ(x) = A e^( ikx ) + B e^( -ikx )
とかくと
ψ(0+) = A + B,                               ψ'(0+) = ik { A – B }
ψ(L-) = A e^(ikL) + B e^(-ikL),    ψ'(L-) = ik { A e^(ikL) – B e^(-ikL) }
となる。ここで k は今まで通り
k = √(2m E) / h
のことであるが、自由波の場合のように k が波数を表すとは限らない事に注意。L- と書いたのは、デルタの置かれた x = L の無限小だけ左側の位置を表している。そしてデルタの無限小だけ右側の位置を x = 0+、x = L+ と表記している。ブロッホ定理から ψ(L+) = e^( iqL ) ψ(0+)、ψ'(L+) = e^( iqL ) ψ'(0+)、すなわち
ψ(L+) = e^(iqL) {A + B},               ψ'(L+) = ik e^(iqL) { A – B }
となる。

デルタ関数の接続条件
ψ(L+) – ψ(L-) = 0
ψ'(L+) – ψ'(L-) = 2mv / h^2 ψ(L+)
から次の式を得る
e^(iqL) A + e^(iqL) B =  e^(ikL) A + e^(-ikL) B
e^(iqL) { A – B } – { e^(ikL) A – e^(-ikL) B } = 2mv/h^2 { e^(iqL) A + e^(iqL) B }
一番目の式から係数AとBの比が
B/A = { e^(iqL)-e^(ikL) } / { e^(iqL)-e^(-ikL) }
と定まり、これを二番目の式に用いてA、Bを消去することで
cos(qL) = cos(kL) + m v/h^2 1/k sin(kL)
が得られる(もっと一般的には「行列式=0」の形で解ける)。エネルギー E からブロッホ波数 q を求める式だと考えると、これは
q(E) = 1/L arccos{ cos(L√(2m E)/ h) + m v/h^2  h/√(2m E) sin(L√(2m E)/ h) }
となる。

宿題:接続条件から上のq(E)式を導け

関数 q(E) をプロットした例を二つほど描いてみた。L = 1 となる長さの単位、√(2m)/ h = 1となるようなエネルギーの単位を取り、デルタの強度 v を、最初の例では mv/h^2 = 5、次のでは mv/h^2 = -2 と選んでみた。


対応する波数 q の存在しないエネルギー E の領域があちこちにある事が見て取れる。つまりこれが、そのエネルギーでは固有値の存在しない「ギャップ領域」であり、それがq(E) が連続的に存在する「バンド領域」を区切っている。これがバンドスペクトルの典型的な例である。

宿題:
上の q(E) のグラフを適当なプログラム言語を用いて、実際に描いてみよ。(マセマティカを用いたプログラム例はこちら

このモデルにバンド構造が存在する数学的理由は、q(E)の式をよく見ると理解できる。q(E) が実数として存在するにはarccosの引数
cos(L√(2m E)) + m v/h^2 1/√(2m E) sin(L√(2m E))
は当然−1と1の間の数でなければならない。第一項だけだと確かにそうなっているが、第二項の存在のために、これが全てのE でそうなるとは保証されないのである。

エネルギー E がバンド領域にあるときは、対応する擬波数  q(E) のブロッホ波動関数が存在し、これは周期的ポテンシャルの存在下での、量子的粒子の一種の自由波に似た伝達を表している。エネルギー E がギャップ領域にある場合、ブロッホ型の解は存在せず、粒子は周期的ポテンシャルのある系内を伝達する事はない。

クローニヒ=ペニー模型の拡張

宿題:
クローニヒーペニー模型で、周期的に置かれたデルタ関数ポテンシャルを、デルタプライム型ポテンシャルで置き換えたものを考える。それの与える接続条件
ψ'(nL+) – ψ'(nL-) = 0
ψ(nL+) – ψ(nL-) = u h^2 /(2m) ψ'(nL+)
ただし n = 0, ±1, ±2, … 、を用いて、エネルギーからブロッホ波数を与える式 q(E) を導け。パラメータを適宜選んでそれを図示し、デルタポテンシャルのモデルと対比せよ。
さらに適宜のプログラムを用いてq(E) を描け

宿題:
クローニヒーペニー模型で、周期的に置かれたデルタ関数ポテンシャルを、スケール不変型相互作用で置き換えたもの
ψ'(nL+) – (1/t) ψ'(nL-) = 0
ψ(nL+) – t ψ(nL-) = 0
ただし n = 0, ±1, ±2, … 、を考える。これを用いて、エネルギーからブロッホ波数を与える式 q(E) を導け。パラメータを適宜選んでそれを図示しデルタポテンシャルのモデルと対比せよ。
さらに適宜のプログラムを用いてq(E) を描け

(original post 2014/5/7)

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